■霧島便り69
【おじいちゃんの靴磨き】
早朝、霧島から高原を通り野尻にぬける山道。
小さなパーキングでおじいちゃんに出会った。
くたびれたワンボックスのかたわらに、たくさんの靴が日干しされている。
子ども用の小さなスニーカーから、大人用の革靴まで、いくつもならべている。
靴の横に座り、靴磨きをしているのだ。
こんな山の中で売れるのかな??
バザーかなにかで古い靴を売っているのかときけばそうではなかった。
「おじいちゃん、これ売ってるんですか?」
「あはは。うんにゃ、うんにゃ(いや、いや)違う違う」
どきどき、天気のよい日に、家族皆の靴を日干しにしてキレイに靴磨きをするのだそうだ。
「もう、おんどんたちゃ(俺たちは)隠居じゃかいよ(隠居だからよ)、たまにこんげして(こうやって)孫たちの靴磨くっちゃが(磨くんだよ)。趣味やが趣味(趣味なんだよ)。」
家族の前でやると照れ臭いので、ドライブがてら、自宅からちょっと離れた場所で靴を磨くことが、ご自身の定番になっているらしい。
陽のあたるおじいちゃんの靴磨き屋さん。
「これが孫たちを毎日無事に家まで運んでくれっちゃ(運んでくれる)と思うとありがたいっちゃが。」
そう言いながら、くわえタバコでせっせと靴を磨いていた。
「俺もちょっとやらせて」
じいちゃん目をまるくして「んにゃんにゃ(あらあら)。」
ペットボトルの霧島茶を二本ならべて、小一時間一緒に座り込み靴磨きをやらせてもらった。
時おり車が目の前を走る。
見知らぬ若い兄ちゃんが、声をかけてくる。
「なんしよっとですかー?(何してるんですか)」
そりゃそうだ。
変な絵だもんね。
じいちゃんと髪の毛ボサボサのヒゲおやじが、道路わきに座り込んで小さな靴を磨いているんだから。
戦争体験の話、子どもの話、孫たちの話、なんか色々話してくれた。
ぽかぽかした。
しあわせだぁ。
僕もよくひとの靴を磨く。
若い衆のセーターの毛玉が気になってとったり、スーツの肩に汚れがついているとブラシをかけたり、曲がっネクタイ直したり。
昔っから、こ姑みたいなことが性癖になっている。
でも、こんな気持ちで磨いたことはなかった。
すっげーなぁ。
今日も無事に帰ってこれますように。今日も無事に孫たちを、子どもたちを無事に帰してくれてありがとう。
そうやって
感謝して磨く。
黙々と磨く。
いるんだなぁ…こんなひといるんだなぁ…。
ラジオから「ADELE」の「SOME ONE LIKEYOU」が流れていた。
別れ際に、おじいちゃんの靴をみたら、ぼろぼろだった。
それ見たら泣けた。
あ~。ヤバイなぁ。こたえるなぁ。
ありがとうございました。
木津龍馬