■霧島便り42
【囲炉裏の火】
囲炉裏の火は格別である。
同じ炎でも
キャンドルや薪ストーブとはまったくちがう。
パチっパチっと
熱で炭が割れる音。
これがたまらない。
煙が多いことがちょいとばかり困るけど、そこはご愛敬。
赤やオレンジ色にまざって紫から青紫へ。
炭の燃え具合によって色が変化する。
ゴトクに網をのせ椎茸を焼くと
香ばしい薫りが部屋中を満たしていく。
ここでお酒をたしなむ方ならオチョコでちょいと、ってな感じになるのでしょうが。
僕の場合は茶畑農家でいらなくなった茎をいただいて自分で燻した番茶を飲む。
お湯は鉄瓶で沸かす。
ゴツイ五徳に鉄瓶をのせる。
炭の火が鉄を温めるさまはとても美しい。
余談だが、鉄瓶や五徳の製作は旧く室町時代より続き、鍛冶屋や茶道具職人が精魂込めてつくったものは未だに存在するという。
人工的な光をすべて消して、炭火の灯りだけで澄んだ星空をあおぎながら、自分で燻したお茶を飲む。
ふわ~っと
湯気が夜空に吸い込まれる。
贅沢なひとときです。
木津龍馬
追伸
陰陽五行説で「亥」は、水性に当たり、「火の災いを逃れる」という言い伝えがあります。
このため庶民の間では、亥の月の亥の日を選び、囲炉裏やコタツを開いて、火鉢を出し始めた風習ができあがりました。
亥の月(旧暦10月)の亥の日の亥の刻(午後10時頃)には「亥の子餅」を食し、無病息災のおまじないとし、平安時代に宮廷の禁裏にて行われたのが始まりと云われています。
紫式部の『源氏物語』では、光源氏と紫の上の巻にて、亥の子餅が登場する場面があります。
その中で大豆、小豆、大角豆、胡麻、栗、柿、アメ(糖)の七種の粉を入れた餅をついたと記されています。
鎌倉時代、武家にも同じような儀式が広まり、イノシシは多産であることから子孫繁栄を願う意味も含まれ、亥の子餅を食したと云えられています。
江戸時代には、亥の月の最初の亥の日を「玄猪の日」と定め、「玄猪の祝い」ともいわれていました。
亥の子餅(いのこもち)を玄猪餅(げんちょもち)と言われるのはこのためです。