■霧島便り26
【機上の会話】
鹿児島から羽田に向かう便は混んでいました。
三列シートの窓際に僕。お隣にご年配の老夫婦。
「お父さん、富士山みえればいいねぇ」
「そうやねぇ」
二人の会話をきいて、窓側の席を譲りました。
ちょうど、夕陽に染まる富士山がお姿をお見せ下さいました。
その写真が前々回と今回のものです。
「あ~、お父さん、みてみて、富士山やわ~。はじめてみたね~。」
「ああ、ほんとやー。はじめてみたなぁ。」
老夫婦はそう話すと、お母さんは、オレンジの光に顔を染めながら、両手を重ねて静かに富士山を拝みました。
それに続いて、お父さんも静かに手のひらを重ねました。
お二人の姿に、機内のエンジン音がまったく気にならなくなりました。
お母さんの目からは、涙が流れています。
お父さんの目にも、涙が滲んでいました。
五分ほど、お二人は、ふじやまさまに合掌したままでした。
荷物の関係で、僕は一番最後に飛行機から降りたのですが、先に降りた老夫婦は、僕を待っていてくれて、深々と頭をさげてくれました。
「ありがとうね。お陰さまで、一生の思い出になりました。」
ふじやまを拝む
五分間のお姿は
お二人の人生を
語っていた気がします。
奇跡の五分間でした。
せつなく
尊く
憂いのある
奇跡の時間でした。
宝物をいただきました。
泣けました。
木津龍馬 拝