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霧島便り

■霧島便り149

【番外・土砂崩れ】




土砂でふさがれた現場に向かった。

細い山道で、1日通してもの交通量のほとんどない林道のような場所。

しかし、塞がれた道の奥には小さな集落があった。
周囲に脇道はあるが、獣道のようなものだ。とても車は通れない。


文字通り、集落の住人と町とを繋ぐ「生命線」が土砂で埋まっていた。

この状況で集落から救急車が呼ばれたとしても、立往生でどうしようもない。

そんなときはヘリでも使うのではないのかと思ったが、そう簡単ではないらしい。



雨の力は凄い。

山は畏ろしい。


生命の源。水。




一心に土砂をかき分けた。
ビー玉のような雨粒が容赦なく、ヘルメットや背中を叩いた。


名も知らぬ屈強な男たちにまざって土砂をかき分けた。掘っても掘っても泥が被さってくる。

ドでかい石もゴロゴロしている。

木の根っこが重い。


時間との勝負。


日没までになんとかしたい。皆の願い。


県の職員なのか市の職員なのか、別隊も近くの現場で必死で作業をしている。

緊迫。


土砂が重い。

いつの間にか、膝下まで土に埋まっていた。

一心不乱に泥を剥ぐ。

泥沼化した土は、人間一人の自由など、簡単に奪ってしまう。


泥が生きているのだ。


作業中は、誰もがおし黙り、無言でシャベルを動かした。


顔も知らない。
名前も知らない男たち。


聴こえてくるのは
雨が土を叩く音と近くの川の濁流音。風の音。


そして作業をする男たちの「ぜーぜー」する呼吸。


白い息。


「ジャリジャリ」とスコップと石の擦れあう音が混ざる。


途中、あまりの苦しさにヘルメットを脱ごうとしたらこっぴどく叱られた。


「メットは絶対脱ぐな!」

やはり、僕はまだ現場をなめていた。


真剣勝負。


二次災害など洒落にならない。


緊張感が走る。


7時間にわたる作業で、ようやく一段落したが、油断はできない状態だった。

今後、通行の制限された時間割で補強工事が進む。





不謹慎ながら

僕はここで仕事ができたことがうれしかった。

自分には
雨風をしのぎ屋根のある棲み家があること。


身体を動かし
働けること。


今日食事ができる生活。

仕事のあること。

すべてがありがたかった。

すべてがうれしかった。

集落から歩いてきたお婆ちゃんが、皆にお茶を運んでくれた。

雨の中カッパを着て。
重いのに。


ペットボトルではない、湯呑みときゅうすと、ポットを手に…


温かだった。


お婆ちゃんは「ありがとうね~ごくろうさま~」と多分言ったのだと思う。


方言がよくわからなかった。笑顔でお茶を煎れてくれた。

温熱が喉に沁みた。



湯呑みを返し泥で汚してしまったことを謝ると 「よかが、よかが」と笑った。


年配のおっちゃんが
「ひとっ風呂浴びて母ちゃんの味噌汁飲みてぇがぁ~、したら一杯やるっちゃが」とぼやいた。


「はいはい、はよかえろうや~」


男たちは全身泥まみれでトラックに乗り家路へ。






そうなのだ。


帰る家があること。


還る場所があること。


それがどんなに幸せなことか。





そこが温かければ

なおのこと。

それがどれほど

幸せなことか。





木津龍馬 拝


写真は雨水がたまったダムの水を放水しているところです。これからの季節、あちこちで地盤がゆるんでくるに違いありません。

皆さま、山道、海岸線にはくれぐれもお気をつけて。




木津龍馬



木津龍馬



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